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QX-20設計資料④:基本設計

QX-20の基本設計について説明する

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はじめに

Aircraft Design: A Systems Engineering Approachより引用(一部強調)

基本設計では,概念設計で決まった形状やコンセプトをもとに航空機の主要なパラメータ,最大離陸重量と翼面積を決定する

機体重量と翼面積が決まってしまえば滑空機の性質はほとんど決まってしまうので,これもまた重要な作業になる

ここでは主に蓄積した過去のデータから得られる推算値を設計に用いる

Aircraft Design: A Systems Engineering Approachより引用

QX-20の基本設計

QX-20の概念設計を確認する(≫QX-20設計資料③:概念設計)

  • 低翼面荷重低速機(棒飛び機)
  • 製作工程削減のため使いまわせるものは最大限使いまわす
  • 低翼
  • 高胴(左右対称)
  • T字尾翼
  • 乗り込み式
  • 主桁は自作CFRPパイプ(楕円テーパー付き),水平尾翼桁はアルミマンドレルの自作CFRPパイプ,垂直安定板はカーボンDボックス
  • 重心移動とラダーで操縦

これをもとに,機体重量の決定と翼面積のサイジングを行っていく

また,この2つを決定することによって,翼面荷重,巡航速度,巡航時のCL,失速速度,アスペクト比も決定することになる

機体重量

QXシリーズの機体重量はおおむね35㎏∼45㎏の間で推移している

QX-20では過去最高の剛性と重量を誇るQX-19の0番と1番を使いまわしたので,機体重量はQX-19を参考にして45㎏とした(QX-19の機体重量42㎏+胴接とT字尾翼による重量増加3㎏)

このようにQX-20では桁の大部分を使いまわしたため機体重量はほとんど自動的に決定したが,本来は機体重量は次のことを考慮して決めるといい

  • 主翼桁の剛性
  • 重心移動式の操縦性
  • プラホからの発進

主翼桁の剛性

機体重量は年々増加の一途をたどっており,その主な原因は主桁の積層数の増加にある

0番,1番,2番の積層数は,QX-11で16層,10層,8層だったものがQX-19では22層,19層,8層まで増加している

桁の重量と桁の剛性はトレードオフなので,翼端のたわみが1.5mくらいになるなら機体重量は35㎏,翼端のたわみが0.7mくらいになるなら機体重量は45㎏になると考えておけばいい

主翼桁の剛性については,主翼の詳細設計にて詳しく説明する

重心移動式の操縦性

もし重心移動式を採用するなら,パイロットはおもにハンググライダーを使って練習することになる

このとき重要になるのが,ハングの操縦と鳥コン滑空機の操縦の間のラグをどのくらい小さくできるかである(鳥コン滑空機はハングに比べて操縦性が悪い)

フライト時の全機重心移動量\(\Delta h\)は,パイロットの重心移動量\(\Delta h_{p}\),重量\(m\),機体の重量\(M\)とすると次のように表される

\begin{eqnarray}
\Delta h=\frac{m}{M+m}\Delta h_{p}
\end{eqnarray}

50㎏のパイロットが20㎏のハングに乗ると\(\Delta h=0.71\Delta h_{p}\)となるのに対して,60㎏のパイロットが35㎏の機体に乗れば\(\Delta h=0.63\Delta h_{p}\),50㎏のパイロットが45㎏の機体に乗れば\(\Delta h=0.53\Delta h_{p}\)になる

つまり,全備重量が同じなら,軽い機体に重いパイロットが乗ったほうが同じパイロットの移動量に対して機体の重心が大きく動くことになる(操縦性の向上)

「鳥コン滑空機はハングに比べて反応が鈍い」といわれているので,パイロットに対して徹底的に機体を軽くして操縦性をハングに近づけ,フライト時の操縦ミスを極力減らす方向に設計を振るのも決して間違った選択ではない(なんなら全備重量が足りなければパイロットにバラストを背負ってもらってもいい)

ただし,機体の操縦性を上げるには次のような選択肢もあることを注意しておく

  • 機体の慣性モーメントを小さくする
  • 機体の安定性を下げる

プラホからの発進

パイロットは機体を担いでプラホから発進しなくてはならない

次の記事(≫滑空機の最適重量についての考察)で機体の重量は発進時の運動エネルギーには影響を与えないことは説明したが,発進時の速度は重量の平方根に反比例する

\begin{eqnarray}
V_{0}=\sqrt{2\frac{P}{m}L}
\end{eqnarray}

そして失速速度\(V_{s}\)は機体重量の平方根に比例する

\begin{eqnarray}
V_{s}=\sqrt{\frac{2mg}{\rho S C_{L_{max}}}}
\end{eqnarray}

つまり,プラホらの発進を楽にする(\(V_{0}\)を大きくして\(V_{s}\)を小さくする)には機体重量を小さくするのが確実であるし,逆にいうと重い機体は筋力自慢のムキムキパイロットが前提にある

QX-20のような女性パイロットで一番恐ろしいのは,プラホ上で機体の重さに耐えきれずつぶされてしまうことである

幸い九大の機体には脚がついているのでパイロットがつぶされる心配はないが,重い機体で十分な加速ができず発進に失敗する可能性は十分にある

この点において,QX-20では桁を全部焼けるなら機体重量は35㎏くらいにしたかった

重量削減

過去最重量の機体に女性パイロットが乗るということで,QX-20では機体重量の削減に努めた

重量削減の基本は,「機能を損なわない」ように「重いところを軽くする」である

たとえばカウルでは,重量を削減するために肉抜きをしすぎればカウルの剛性が下がり,組み立てるたびに形が変わる「生きたカウル」が誕生する

QX-20の重量割合を以下に示す

QX-20では主翼の重量はいじれないので,脚乗り込み,カウル,胴体の重量削減に努めることにした

パイロット重量

パイロット重量に関してはその年のパイロットによるとしか言いようがないが,パイロットに標準体重以下の減量を求めるのはあまり好ましくないと思う

筋肉量を維持しつつ脂肪を減らすのがどれだけ大変か,実際に経験してみてほしい

QX-20ではパイロット重量は53㎏とした

主翼面積

QX-20の全備重量が98㎏に決定したので,主翼の面積を決定していく

主翼面積の決定には次の表を用いた

一番左の表は横軸に機体重量,縦軸に翼面積をとり,各々における翼面荷重を計算したもので,所望の翼面荷重にするにはどれくらいの翼面積が必要かを求める

真ん中の表は横軸に翼面荷重,縦軸に飛行速度をとり,各々におけるCLを計算したもので,所望の巡航速度にしたときの巡航CLとプラホからの発進速度を求める

全機揚力傾斜は例年0.115 [1/deg]程度であり,プラホからの発進時の迎角はプラホ傾斜とテール下げ角を足して巡航時迎角を引けば最大で5 [deg]くらいになるので,プラホ発進時のCLは巡航CL+0.115×5になり,プラホからの発進速度を求めることができる

一番右の表は横軸にスパン,縦軸に翼面積をとり,各々におけるアスペクト比を計算したもので,翼面積とスパンが決定したときのアスペクト比を確認することができる

九大のスパンは作業スペースや運搬の都合上,25m(5mの桁×5)+α(3番翼orウィングレット)である.QX-19ではほかの主翼と同様の構造を持った3番翼を採用したが,プランクは貼りづらいし運用も非常に面倒だったので,QX-20では発泡ブロックから切り出す長めのウィングチップを採用することにした

上記の表とにらめっこした結果,次のような値に決定した

  • 主翼面積18.8㎡
  • 翼面荷重5.2㎏/㎡
  • 巡航速度9.5m/s
  • スパン27m
  • 発進速度7.5m/s

本当は全備重量90㎏,翼面荷重4.8㎏/㎡くらいに仕上げたかった

全備重量が98㎏あるため,翼面荷重を下げようとすると主翼面積が20㎡を超えてしまい,その結果濡れ面積が増加し,アスペクト比も低下してしまうので,主翼面積は18.8㎡,翼面荷重5.2㎏/㎡にとどめた

巡航速度は棒飛び寄りの機速9.5m/sとし,発進速度も7.5m/s(機速5.5m/s+正対風2m/s)で脚があれば無理な値ではない(と思う)

まとめ

基本設計は以下のようになった

  • 全備重量98㎏(機体45㎏+パイロット53㎏)
  • 主翼面積18.8㎡
  • 巡航速度9.5m/s
  • スパン27m

これをもとに詳細設計を行っていく

↓QX-20設計資料まとめ

QX-20設計資料
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