大規模疎行列に対する連立一次方程式のソルバー:Skyline法

大規模疎行列に対する連立一次方程式のソルバーであるSkyline法をC言語で実装する

流体解析や構造解析で有限要素法を使うときに,省メモリ・高速化に役立つ

はじめに

疎行列

疎行列についてWikipediaでは次のように書いてある

疎行列(そぎょうれつ、: sparse matrix)とは、成分のほとんどが零である行列のことをいう。スパース行列とも言う。 有限差分法有限体積法有限要素法などで離散化された偏微分方程式は一般に疎行列を係数行列とした連立一次方程式となる。
数値解析の分野では、疎行列を前提とした解法が多い。疎行列であれば格納方式を工夫することで次元数を増やすことができる上に、ベクトル-行列積が比較的低計算量で求められるためである。

疎行列 – Wikipedia

有限要素法の係数行列は要素数は非常に大きい(数万×数万)のにその成分のほとんどが0なので,行列の要素全てを記憶しているとメモリのほとんどが無駄になる

また,メモリのアクセスに関しても無駄が多く,計算時間も非常に大きくなる

一般に有限要素法の係数行列は実対称行列であり,0でない要素を持つのは行列の対角成分の付近なので,それを考慮して配列に値を格納することによって省メモリ・高速化が可能になる

その格納方法の一つが,今回扱うSkyline法である

Skyline法

Skyline法については,以下の資料を参考にした

非線形有限要素法特論 Nonlinear Finite-element-Method _ UTokyo OpenCourseWare・・・文献1の掲載元
第10回 連立一次方程式の数値解法―skiline法、反復法・・・文献1

さすが天下の東京大学,講義資料を公開するとは器が大きい

ちなみにこういうのもある

DOWNLOAD -ダウンロード- __ SPACE・・・文献2の掲載元
SPACE で学ぶ構造力学入門 骨組編Ⅲ 第5章・・・文献2

Skyline法では2次元配列である係数行列の値を以下のような順番で1次元配列(skyline行列)に格納する

値が0の要素は配列に格納しないため,すべての値を格納し終わったときのskyline行列を図に示すと以下のようになる

この図の形が,立ち並ぶ高層ビルの輪郭線に見えることからSkyline法というらしい.非常にオシャレである

skyline法を扱うために,次の2つの1次元配列:\(nd_{i}\),\(n_{min_{i}}\)を定義する

\(nd_{i}\):n_diagonal_i

\(nd_{i}\)は,元の係数行列のi行目の対角項の値がskyline行列の何番目の要素に格納されているかを格納している配列である

要素数は元の係数行列の行数(=列数)に一致する

\(nd_{i}\)を使えば,元の係数行列の\((i, j)\)の要素はskyline行列の\(nd_{i}+i-j\)の要素としてアクセスできる

\(n_{min_{i}}\):n_minimum_i

\(n_{min_{i}}\)は,元の係数行列のi行目において,非ゼロの要素が入っている最小の列数jを格納した一次元配列である

skyline行列の例

以下に,係数行列の例と\(nd_{i}\),\(n_{min_{i}}\)の値を示す

アルゴリズム概要

Skyline法による連立一次方程式ソルバーのアルゴリズムを説明する.詳しくは文献1を参考にしてほしい

やっていること自体はLDU分解で,修正コレスキー分解と言ったりもするらしい
コレスキー分解 – Wikipedia

アルゴリズムの概要は次のようになる

  1. 係数行列\({\bf K}\)をLDU分解する
  2. 下三角行列\({\bf L}\)を使って前進代入を行う
  3. 上三角行列\({\bf U}\)を使って後退代入を行う

ちなみに文献1では上三角行列に注目して列のループを回しているが,筆者は文献2のように下三角行列に注目して行のループを回す方が理解しやすかった

どちらでも結果に影響はないが,これからの説明およびプログラムは文献1をベースにしつつ下三角行列に注目して行っていく

LDU分解

連立一次方程式の係数行列\({\bf K}\)は下三角行列\({\bf L}\),対角行列\({\bf D}\),上三角行列\({\bf U}\)を用いて次のように分解できる

\begin{eqnarray}
{\bf K}={\bf L}{\bf D}{\bf U}
\tag{1}
\end{eqnarray}

有限要素法では一般に係数行列\({\bf K}\)は実対称行列なので式(1)は次のようになる

\begin{eqnarray}
{\bf K}&=&{\bf L}{\bf D}{\bf L^{T}}
\tag{2} \\
{\bf L}&=&{\bf U^{T}}
\end{eqnarray}

ただし,下三角行列\({\bf L}\)および上三角行列\({\bf U}\)の対角項の値はすべて1である

式(1)を行列の成分であらわすと次のようになる

\begin{eqnarray}
K_{ij}&=&L_{ij}D_{jj}~~~(j=n_{min_{i}})
\tag{3}\\
K_{ij}&=&\sum_{k=max(n_{min_{i}},n_{min_{j}})}^{i-1}L_{ik}D_{kk}U_{kj}+L_{ij}D_{jj}~~~(j=n_{min_{i}}\ldots i-1)
\tag{4}\\
K_{ii}&=&\sum_{k=n_{min_{i}}}^{i-1}L_{ik}D_{kk}U_{ki}+D_{ii}~~~(i=j)
\tag{5}\\
\end{eqnarray}

式(3)~(5)を使い,次のように下三角行列\({\bf L}\),対角行列\({\bf D}\),上三角行列\({\bf U}(={\bf L^{T}})\)を求めていく

  • 1行目(i=1)
    式(3)より,\(D_{11}=K_{11}/L_{11}\)を計算する.定義より\(L_{11}=1\)
  • 2行目(i=2)
    式(3)より,\(L_{21}=K_{21}/D_{11}\)を計算する
    式(5)より,\(D_{22}=K_{22}-L_{21}D_{11}U_{12}\)を計算する
  • 3行目~最終行(i=3~n)
    式(4)より\(L_{ij}\)を計算する.\((j<i)\)
    式(5)より\(D_{ii}\)を計算する

前進代入・後退代入

LDU分解によって,\({\bf K}={\bf L}{\bf D}{\bf U}\)となる下三角行列\({\bf L}\),対角行列\({\bf D}\),上三角行列\({\bf U}\)が得られた

ここで解を求めたい連立一次方程式\({\bf Kx}={\bf b}\)を次のように変形する

\begin{eqnarray}
{\bf LDUx}&=&{\bf b}\\
{\bf Ly}&=&{\bf b}~~~({\bf DUx}={\bf y})
\tag{6}\\
{\bf Ux}&=&{\bf (D^{-1}y)}
\tag{7}\\
\end{eqnarray}

式(6)の方程式は前進代入,式(7)の方程式は後退代入によって解くことができ,最終的に解\({\bf x}\)が求められる

式(6),式(7)の方程式を成分を用いて表して整理すると次のようになる

\begin{eqnarray}
y_{i}=b_{i}-\sum_{k=1}^{i-1}L_{ik}x_{k}
\tag{6′}\\
x_{i}=\frac{y_{i}}{D_{ii}}-\sum_{k=n}^{i+1}U_{ik}y_{k}
\tag{7′}\\
\end{eqnarray}

プログラムの実装

ランダムな値を要素に持つ配列\({\bf A}\),\({\bf b}\)についての連立一次方程式\({\bf Ax}={\bf b}\)をガウスの消去法とskyline法で解き,計算時間を比較するプログラムを作る

ガウスの消去法とskyline行列の可視化プログラムについてはこの記事の最後にソースコードを乗せておくので参考にしてほしい

ガウスの消去法やskyline法は今後いろいろなプログラムで使うことになるので,ソースファイルを分割しヘッダーファイルをincludeしている
最小限の分割 – 苦しんで覚えるC言語

main関数

メイン関数のソースコードを以下に示す

20~37行目で,ランダムな要素を持つ行列を生成している

行列\({\bf A}\)は実対称行列なので,下三角の成分のみ計算し,32∼37行で上三角部分に値を代入している

24行目で,列のループの最初の値j0をランダムに決定することによって,skylineっぽい行列になるようにしている

関数rand,srandについては次のサイトを参考にした
【C言語入門】乱数(rand)の使い方 _ 侍エンジニア塾ブログ(Samurai Blog) – プログラミング入門者向けサイト

また,行列\({\bf A}\)をつくるときにskyline行列の要素数ssizeを計算しておき,38行目でskyline行列\({\bf L}\)の要素数を定義している
配列を自由自在に作る – 苦しんで覚えるC言語

40~54行目で,2次元配列Aを1次元配列Lに格納し,ついでにndとnminを計算している

skyline_method関数

skyline法のソースコードを以下に示す

メモリ節約のため,\({\bf K}\),\({\bf L}\),\({\bf D}\)はすべて配列Lに,\({\bf b}\),\({\bf x}\),\({\bf y}\)はすべて配列bに格納されており,\({\bf U}={\bf L^{T}}\)を利用している

10∼15行目では,\(K_{21}=0\)だった場合の場合分けをしている

17∼30行目で式(4)より\(L_{ij}\)を計算している

\begin{eqnarray}
L_{ij}&=&(K_{ij}-\sum_{k=max(n_{min_{i}},n_{min_{j}})}^{i-1}L_{ik}D_{kk}U_{kj})/D_{jj}~~~(j=n_{min_{i}}\ldots i-1)
\tag{4′}
\end{eqnarray}

31∼36行目で式(5)より\(D_{ii}\)を計算している

\begin{eqnarray}
D_{ii}&=&K_{ii}-\sum_{k=n_{min_{i}}}^{i-1}L_{ik}D_{kk}U_{ki}~~~(i=j)
\tag{5′}
\end{eqnarray}

i行目で列のループ(j, k)を回すときは,nmin[i]を利用して要素が0の成分にはアクセスしないようにしている

40∼50行目では式(6’)によって前進代入を計算し,52∼69行目では式(7’)により後退代入を計算している

\begin{eqnarray}
y_{i}=b_{i}-\sum_{k=1}^{i-1}L_{ik}x_{k}
\tag{6′}\\
x_{i}=\frac{y_{i}}{D_{ii}}-\sum_{k=n}^{i+1}U_{ik}y_{k}
\tag{7′}\\
\end{eqnarray}

後退代入では列を固定して行のループを回しているので,62~66行目の場合分けによって要素が0の成分にはアクセスしないようにしている

プログラムの実行

筆者のパソコンの限界であるnmax=500としてプログラムを実行してみると実行結果は次のようになった

nmax=500という小さな配列だが,ガウスの消去法と比較してskyline法ではメモリの大きさは約4分の1,計算時間は約6分の1になった

ガウスの消去法のメモリの大きさと計算時間は要素数の2乗で増加していくので,nmaxが数万や数十万になればskyline法の有用性はより顕著になる

まとめ

有限要素法などのプログラムをつくるときに今回作ったskyline法のソルバーを使っていきたい

おまけ

Gaussian_Elimination関数

plot_resluts関数

Sponsored Link

コメント

タイトルとURLをコピーしました