QX-20の胴体,脚およびカウル設計について説明する
はじめに
主翼,尾翼の詳細設計の次は,胴体,脚,カウルの詳細設計を行う
とはいえ,具体的な脚の設計は脚班が,カウルの設計はカウル藩が行った
QX-20の胴体・脚・カウルの詳細設計
九大の構造上,胴体,脚,カウルの設計は密接に関係しており,どれか一つだけ独立して設計することはできない
各部の設計はそれぞれ全体設計,脚班,カウル藩が行うため,常に連携を取り合う必要がある
胴体
胴体の詳細設計で決めるべきパラメータを下に示す
- 胴体長さ
- 胴体取り付け角
- 桁寸法および積層構成
それぞれ解説していく
胴体長さ
胴体の長さを決定するためには次の設計要求を考える必要がある
- 尾翼のモーメントアーム
- 機体の慣性モーメント
- テール保持者
尾翼のモーメントアーム:次の記事(≫QX-20設計資料⑥:尾翼詳細設計)で3.2mと決定したので,胴体の長さは3.2m以上必要になる.それ以降の胴体パイプは構造上意味を持たないため,3.2m以上ならどんな長さでもいい
機体の慣性モーメント:操縦性をハングに近づけるため,縦の慣性モーメントIyyはできる限り小さいほうが良い.機体重心から離れた位置の重量は慣性モーメントに大きく影響するので,胴体の長さは短いほうが良い
テール保持者:テール保持者が機体を支えるため,胴体後端につかめる場所が必要である.また,雨で濡れたプラホは非常に滑るため,テール保持者がプラホから落ちることなく機体を送り出せる十分な長さが必要になる.(実際に筆者はQX-18でプラホを4m近く滑った)
QX-20では,機体の慣性モーメントを最小限に抑えつつ,テール保持者が安全に機体を送り出せるよう,胴体の長さは3.2mとし,そこから細いカーボンパイプで4.0mまで延長する構造を採用する予定である
胴体取り付け角
胴体の取り付け角を決定するためには次の設計要求を考える必要がある
- 離陸迎角\(\alpha_{TO}\)
- 胴体の有害抗力
- 尾翼の取り付け
離陸迎角\(\alpha_{TO}\):離陸時の迎角は,胴体後端を保持しているテール保持者によって決定されるが,そのためには胴体後端と地面との間に十分な距離が必要になる.胴体後端と地面との距離は,脚の長さと胴接の高さによっても変化する
上図より,胴体後端と地面との距離は\(H_{F}-L_{F}\times \tan{3.5^{\circ}}\)なので,テール保持者が胴体後端を地面すれすれまで下げた時の離陸迎角\(\alpha_{TO}\)は次の式で表せる
\begin{eqnarray}
\alpha_{TO}=3.5^{\circ}+\arctan{\frac{H_{F}-L_{F}\times \tan{3.5^{\circ}}}{L_{F}}}
\end{eqnarray}
想定した気象条件においてプラホから確実に発進できるように,離陸迎角\(\alpha_{TO}\)の値が十分大きければよい
胴体の有害抗力:定常滑空時に胴体が進行方向に対して斜めになっていれば,その分だけ抗力が増加する.一般に円柱の抗力係数は\(C_{D}=1.0\)と非常に大きいので,胴体の角度はできる限り進行方向に平行なほうが良い
尾翼の取り付け:水平尾翼,垂直尾翼はそれぞれ機体軸に対して垂直に取り付ける.そのため尾翼を取り付ける胴体は機体軸と平行なほうが良い
以上のことを考慮して,QX-20では胴体の取り付け角は0度(機体軸と平行)とした
桁寸法および積層構成
胴体の桁寸法および積層構成を決定するためには次の設計要求を考える必要がある
- 強度・剛性
- 重量
強度・剛性:胴体パイプは尾翼にはたらいた力を主翼桁に伝えるはたらきをする.胴体に十分な剛性がなければ尾翼にはたらく力は主翼桁に伝わらず,尾翼の機能を損ねてしまう.また,胴体パイプの根元には主翼で発生したモーメントと同じ大きさの曲げモーメントがはたらくため,胴体桁が折れないような強度が必要になる
重量:九大の胴体桁にはテーパーがついている.テーパーをつけることによって,重量が減り,テールヘビーも解消できる.ただ,胴体桁の重量はたかだか1.5㎏程度しかないので,テーパーの目的は重量削減よりもテールヘビー解消の意味合いが強い
QX-20では,QX-19の胴体を使いまわしたので,胴体太端径105㎜,テーパー比9㎜/m(単位長さ当たりで長軸径が9㎜小さくなる),積層構成は(90/45/0/オビ×2/0/-45/90)である
正直,どのくらいまで剛性を減らしたら尾翼が機能しなくなるかは飛ばしてみないとわからないので,特に絶対的な自信がなければ例年と同程度の剛性を持たせておくといい
胴接
胴接とは,主翼桁と胴体桁をつなぐ接合部である
胴接の詳細設計で決めるべきパラメータを下に示す
- 胴接幅・胴接高さ
- 桁寸法および積層構成
それぞれ解説していく
胴接幅・胴接高さ
胴接幅・胴接高さを決定するためには次の設計要求を考える必要がある
- パイロットの体型
- カウルの形状
パイロットの体型:胴接の幅・高さはパイロットが無理なく乗り込めて,安全に脱出できる幅・高さにする必要がある.そのため胴接幅・高さはできるだけ大きいほうが良い
カウルの形状:抵抗を減らすため,胴接構造はカウルで滑らかに覆いつくす必要がある.カウルの肥大化を防ぐため,胴接の幅・高さはできるだけ小さいほうが良い
QX-20では,事前にモックアップを作成し,パイロット,カウル設計と相談しつつ,パイロットが確実に乗り降りできる最小の幅を決定した
計測の結果,胴接幅は290㎜,胴接高さは320㎜とした
桁寸法および積層構成
胴体の桁寸法および積層構成を決定するためには次の設計要求を考える必要がある
- 強度・剛性
- 重量
強度・剛性:胴体桁と同様に,胴接構造も尾翼の力を主翼桁に伝えるはたらきをする.また,フライト中パイロットに最も近い位置にある構造材なので,絶対に壊れない強度を持たせる必要がある
重量:胴接は低翼高胴T字尾翼にのみ必要な構造であり,低翼高胴T字尾翼の重量的なデメリットといえる.そのため,重量は小さいほうが良い
QX-20では,工数削減のため,QX-19で製作した試作桁を使いまわしたため,長軸径100㎜・短軸径90㎜,積層構成(90/45/0/オビ×4/-45)sである
また,接合の際に施す強化積層は,従来の積層構成から大きく減らし,(45/0/-45/90)の4層とした
胴体根元の曲げモーメントが主翼翼根の曲げモーメントの数%程度しかないことを考えると,すさまじい過強度,過剛性だと思われる
フライト後の胴接破壊試験の結果次第だが,胴接パイプの積層構成はもっと減らしてもいい
脚・カウル
脚,カウルの設計はそれぞれの班が行うが,機体の性能に大きく影響を与えるものなので,まかせっきりにせず,それぞれの班の設計資料によく目を通し,逐一進捗を確認するといい
まとめ
これでQX-20の詳細設計についての説明は終了である
胴接構造に関してはQX-20が初めての取り組みで,しかもかなり限られた期間で製作したものなので,来年以降改善の余地は多くあると思う
胴接部分の図面の出力についてはこちら
↓QX-20設計資料まとめ
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