ヘリコプターの力のつり合いを説明する
はじめに
ヘリコプターや固定翼機が空を飛ぶためには,機体にはたらく重力と空気抵抗につりあうだけの力が必要になる
機体にはたらく力がつりあっており,機体にはたらくモーメントがゼロになっている状態をトリムという
この記事では,ヘリコプターの代表的な2つの飛行形態について,縦・方向・横のトリムについて説明する
↓今回の記事の参考文献
それではいってみよう
固定翼機の力のつり合い/トリム
固定翼機がトリム飛行(等速等高度前進飛行)をするためには,以下の4つの力がつりあう必要がある
翼が空気の流れの中に置かれると,空気から力を受ける
その流れに対する垂直成分の力が揚力で,水平成分の力が抗力である
飛行機が空中にとどまっておくためには機体にはたらく重力と揚力の大きさが釣り合っている必要があり,同じ速度で飛び続けるためには機体にはたらく抗力と同じ大きさの推進力を生み出す必要がある
このとき,機体にはたらくモーメントの合計はゼロになっており,機体は左右対称のため横方向の力もはたらいていない
ヘリコプターの力のつり合い/トリム
ヘリコプターの力のつり合い/トリムは,固定翼機と比較して以下の点が大きく異なる
- はたらく力が3つしかない
- トリム状態が2つある
- 空力的に左右非対称である
ヘリコプターでは,固定翼機における推進力と揚力の役割をメインローターの推力だけで担っているため,機体にはたらく力は推力,抗力,重力の3つになる
また,ヘリコプター特有のホバリング(空中で静止する飛行形態)における特性は前進飛行時と大きく異なるため,トリム状態も2つあると考えた方がいい
それぞれのトリム状態について,3つの力がどのようにつりあっているかを説明する
≫剛体にはたらく力のつり合い ■わかりやすい高校物理の部屋■
前進飛行
ヘリコプターが前進飛行しているときの力のつり合いは以下のようになる
機体には推力,抗力,重力の3つの力がはたらいており,推力の進行方向成分と抗力,推力の鉛直方向成分と重力がそれぞれ同じ大きさ逆向きでつりあっている
メインローター推力がローター回転面に垂直で,かつ推力・抗力・重力の作用線が1つの点で交わっていることに注目してほしい(機体にはたらくモーメントはゼロ)
上の図のように,前進飛行中に胴体を水平に保つために,ヘリコプターではあらかじめメインローターの回転軸を前傾させておく
実際のヘリコプターの前進飛行時は固定翼機と同様に水平安定板が下向きの揚力を発生させているため,重心位置は「メインローターシャフトのわずかに前方」に位置することが多い
ホバリング
ヘリコプターがホバリングしているときの力のつり合いは以下のようになる
前進飛行時との違いは以下の3点
- 推力が真上にはたらいていること
- メインローターの吹き下ろしによって抗力が真下にはたらいていること
- 胴体が頭上げになっていること
前進飛行時と同様に,「メインローター推力がローター回転面に垂直」で「3つの力の作用線が1点で交わる」ということを考えれば,胴体の姿勢は頭上げで決定する
方向のトリム
ヘリコプターのメインローターが回転すると,ローターの回転方向と逆の方向に機体を回そうとする反トルクが発生する
シングルローターのヘリコプターでは,メインローターの反トルクとつりあうようにテールローターの推力を調整し,メインローターの反トルクを相殺している
このテールローターの推力によって,ヘリコプターにはたらく力は左右非対称になり,ヘリコプターの飛行力学をより一層難しくしている
ちなみに,メインローターの反トルクを相殺し,さらに方向の操縦も行える機構は,テールローター以外にもたくさんある
同軸反転ローター
〇 上下のローターを逆方向に回転させてトルクを相殺する
〇 上下のローターのトルク差で方向の操縦を行う
〇 テールブームが必要ないので全長が短くなる
〇 エンジンパワーをすべて推力に使うことができる
× 構造が複雑になる
× オートローテーション中は方向の操舵が逆効きになる
↳ 大きなラダーを装備する必要がある
タンデムローター
〇 前後のローターを逆方向に回転させてトルクを相殺する
〇 前後のローターを左右逆方向に傾けることで方向の操縦を行う
〇 縦の操縦は前後のローターの推力差で行うので,大きな操舵力が得られる
〇 前後の重心位置の許容範囲が広い
〇 胴体のほとんどを客室あるいは貨物室にできる
× 構造が複雑になる
× 尾翼が装備できない(装備しても効きが弱い)
↳ 安定性が低い
サイドバイサイドローター
〇 左右のローターを逆方向に回転させてトルクを相殺する
〇 左右のローターを前後逆方向に傾けることで方向の操縦を行う
〇 横の操縦は左右のローターの推力差で行うので,大きな操舵力が得られる
〇 左右の車輪の間隔を広くとれるので地上での安定性が高い
× 構造が複雑になる
× 左右のローターを支える構造により重量が増加し,空気抵抗が大きくなる
コンパウンドヘリコプター
〇 左右のプロペラの推力差でメインローターの反トルクを相殺する
〇 左右のプロペラの推力差で方向の操縦を行う
〇 左右のプロペラで前進推力を生み出し,小翼で揚力の一部を負担する
↳ メインローターの回転数を落とすことができ,従来ヘリコプターよりも高速で飛行できる
横のトリム
ヘリコプターが前進飛行/ホバリングするためには,テールローター推力とつりあうようにメインローター推力を横に傾ける必要がある
さらに,テールローターの高さによってトリム時の胴体のバンク角が変化する
このように,トリム飛行時の胴体の角度(ピッチ/ロール)の計算は一筋縄ではいかない
おわりに
ヘリコプターの力のつり合いについて説明した
↓おすすめ記事
コメント