一様な上昇風および巡航中に正対風や背風が非常に短い時間で変化した場合の対気エネルギーと対地エネルギーの変化について説明する。
はじめに
前の記事「航空機が風からエネルギーを得る仕組み」では、対地エネルギーと対気エネルギーを定義し、風とのエネルギー交換を表す二つの一般式を導いた。
\begin{align}
\dot E_g &=-DV_a +mgW_z +m\mathbf W\cdot\dot{\mathbf V}_g \\\\
\dot E_a &=-DV_a +mgW_z -m\mathbf V_a\cdot \frac{d\mathbf W}{dt}
\end{align}

本記事では、この
- 一様な上昇風
- 巡航中に正対風や背風が非常に短い時間で変化した場合
へ適用する
それではいってみよう
上昇風によるエネルギー獲得
一様な上昇風では、風速そのものが時間的・空間的に変化しなくても、空気全体が上向きに移動しているため、一般式の \(W_z\) が正のエネルギー項になる。
一様な上昇風を、
\begin{align} \mathbf W =W_z\mathbf e_z, \qquad W_z>0 \end{align}
とする。
対地エネルギー高度の時間変化率は、\(\dot E_g\) の式の両辺を \(mg\) で除して
\begin{align} \dot H_g =-\frac{DV_a}{mg} +W_z +\frac{W_z\dot V_{g,z}}{g} \end{align}
となる。
定常飛行では、 \(\dot{\mathbf V}_g =\mathbf 0 \) なので、
\begin{align} \dot H_g =W_z -\frac{DV_a}{mg} \end{align}
である。
したがって、上昇風 = 単位時間当たりの対地エネルギー高度の獲得率 であることがわかる。
これは、航空機が飛んでいるときに、上昇風の速度で、航空機の周りの空気塊ごと航空機が持ち上げられ、位置エネルギーを獲得している、と読み替えてもよい。
対気エネルギーで見た場合でも、風速が時間的・空間的に一定であれば、\( \frac{d\mathbf W}{dt} =\mathbf 0 \) なので、この条件を対気エネルギー高度の一般式へ代入すれば、
\begin{align} \dot H_a &=-\frac{DV_a}{mg} +W_z -\frac{\mathbf V_a}{g} \cdot \frac{d\mathbf W}{dt} \\ &=-\frac{DV_a}{mg} +W_z \end{align}
となる。
このように、定常飛行では、対地エネルギー高度と対気エネルギー高度のどちらから考えても、
\begin{align} \dot H_g =\dot H_a =W_z-\frac{DV_a}{mg} \end{align}
となる。
また、上昇風から得るエネルギーが抗力による損失を上回っていれば、
\begin{align}
W_z>\frac{DV_a}{mg}
\qquad \rightarrow \qquad
\dot H_g > 0
\end{align}
となり、航空機は実際に高度を獲得することができる。
これが、グライダーなどが上昇気流中で旋回して高度を獲得するソアリングの原理である。
巡航中に突然風が変化した場合
次に、飛行中の航空機が、非常に短い時間で風速の変化に遭遇する場合を考える。
風速変化に伴うエネルギー変化
ここでは、風速変化の時間が航空機の運動応答に比べて十分短い極限を扱う。
すなわち、
- 風速が非常に短時間で変化し、
- その間の空気力の力積を無視でき、
- その瞬間には対地速度と高度がほとんど変化しない
\begin{align}
\Delta\mathbf V_g &=\mathbf 0 \\
\Delta h &= 0
\end{align}
とする。
対地エネルギーは
\begin{align}
E_g = \frac{1}{2}mV_g^2+mgh
\end{align}
なので、風速が瞬間的に変化した場合、対地エネルギーは変化しないことがわかる。
一方、\( \mathbf V_a =\mathbf V_g -\mathbf W \)なので、風速が \(\Delta\mathbf W\) だけ変化すると、対気速度は周囲の風速に応じて直ちに変化し、
\begin{align}
\mathbf V_a^+ =\mathbf V_a^- -\Delta\mathbf W
\end{align}
となる。ここで、上付きの \(-\) は風速変化直前、\(+\) は直後を表す。
よって、風速が瞬間的に変化した場合、対気エネルギーも変化し、その時の変化量は、
\begin{align} \Delta E_a &=\frac{1}{2}m \left| \mathbf V_a^- -\Delta\mathbf W \right|^2 -\frac{1}{2}m \left| \mathbf V_a^- \right|^2 \\ &=-m\mathbf V_a^- \cdot \Delta\mathbf W +\frac{1}{2}m \left| \Delta\mathbf W \right|^2 \end{align}
となる。
対地エネルギーは変化していないのに、対気エネルギーは変化することになっており、何が起きているのかさっぱりわからない。
というわけで、何が起こっているのかを理解するために、いくつかのケースにおいてそれぞれのエネルギーがどのように変化するかを、具体的に考えてみる
突然正対風が吹いた場合
座標系はこれまでと同様に、風下方向を \(+x\) とし、無風中を風上方向(\(-x\)方向)へつりあい飛行する航空機を考える。
風速変化前の対気速度は、
\begin{align} \mathbf V_a^- =-V\mathbf e_x, \qquad V>0 \end{align}
である。
ここで、風速 \(U\) の正対風が突然発生したとする。
\begin{align} \Delta\mathbf W =U\mathbf e_x, \qquad U>0 \end{align}
対気速度は、風下方向を正として
\begin{align} \mathbf V_a^+ &=\mathbf V_a^- -\Delta\mathbf W \\ &=-\left( V+U \right) \mathbf e_x \end{align}
となり、対気速度の大きさは \(V\) から \(V+U\) へ増加する。
対気エネルギー変化は、
\begin{align} \Delta E_a &=-m \left( -V\mathbf e_x \right) \cdot \left( U\mathbf e_x \right) +\frac{1}{2}mU^2 \\ &=mVU +\frac{1}{2}mU^2 \\ &>0 \end{align}
である。これは、突然の正対風の増加により、対気エネルギーが増加したことを意味している。
一方、対地速度と高度は瞬間的には変化しないため、
\begin{align} \Delta E_g=0 \end{align}
である。
この瞬間、対気エネルギーだけが増加し、対地エネルギーは一定に保たれる。
ここで重要なのは、釣り合い飛行をしているときに正対風が急に強くなると、対地速度は瞬間的には変化しない一方、対気速度は増加するため、もとの釣り合い状態に対して対気速度の余剰が生じている、ということである。
そこで、風速変化後の一様な正対風中で、この対気速度の余剰を使って減速しながら上昇する場合を考える。
抗力を無視すれば、一様水平風中 \(\mathbf W =U\mathbf e_x\) において、対気エネルギーは一定である( \(\Delta E_a=0\) )。
よって、一様な正対風中で余剰速度を高度に変換するときの対地エネルギーの変化は
\begin{align}
\Delta E_g
&=\Delta E_a +m\mathbf W\cdot \Delta\mathbf V_a \\
&=m\mathbf W\cdot\Delta\mathbf V_a \\
&=mU\Delta V_{a,x} > 0
\end{align}
となる(風上方向に飛行しているので \(V_{a,x}<0\) であり、減速すると \(\Delta V_{a,x}>0\) となる)。
したがって、
- 突然正対風が発生した瞬間には対気エネルギーのみが増加するが、
- その後に正対風中で減速上昇することで、対地エネルギーを増加させることができる
ということがわかった
某人間コンテストの滑空機部門において、強い正対風の中離陸した滑空機が、離陸直後に余剰速度を高度に変換してから滑空することで飛距離を伸ばすことができるのは、これが理由である。
突然背風が吹いた場合
次に、無風中を風下方向( \(+x\) 方向)へ飛行する航空機を考える。
風速変化前の対気速度は、
\begin{align} \mathbf V_a^- =V\mathbf e_x, \qquad V>0 \end{align}
である。
風速 \(U\) の背風が突然発生すると、
\begin{align} \Delta\mathbf W =U\mathbf e_x, \qquad U>0 \end{align}
である。
対気速度は、
\begin{align} \mathbf V_a^+ &=\left( V-U \right) \mathbf e_x \end{align}
となる。
通常の飛行状態として、背風が航空機の飛行速度より大きくないこと(\( 0<U<V \))を仮定すれば、対気速度の大きさは \(V\) から \(V-U\) へ低下する。
対気エネルギー変化は、
\begin{align} \Delta E_a &=-mVU +\frac{1}{2}mU^2 \\ &=-mU \left( V- \frac{U}{2} \right)<0 \end{align}
となり、減少する。
このときも、瞬間的には、
\begin{align} \Delta E_g=0 \end{align}
である。
その後、背風中で降下し、対気速度を風下方向へ増加させると、
\begin{align} \Delta V_{a,x}>0 \end{align}
なので、前節と同様に抗力を無視し、 \(\Delta E_a = 0\) とした場合、
\begin{align} \Delta E_g=mU\Delta V_{a,x}>0 \end{align}
となる。
したがって、先ほどの議論とは逆に、突然背風が発生した瞬間には
- 対気エネルギーは減少するが、
- その後に背風中で増速降下することで、風が航空機へ正の仕事を行い、対地エネルギーは増加させることができる
ことがわかる。
これが、某人間コンテストで滑空機が風下旋回すると飛距離を伸ばせる理由か~と思いたくなるが、事はそう単純ではないので、引き続きこのシリーズを読み進めてもらいたい
正対風または背風が突然やんだ場合
風が突然やむ場合も、変化時間が十分短ければ対地速度の変化はゼロであり、風速が変化するので対気速度は瞬間的に変化する。
ただし、その後、無風中で減速上昇、増速降下しても、 \(W=0\) のため、位置エネルギーと運動エネルギーが変換されるだけで、(抗力を無視すれば)対地エネルギーの総量は変化しない。
対地エネルギーの増加は、 \(m\mathbf W\cdot\dot{\mathbf V}_g\) の項で表される通り、風の中での加速度運動によってもたらされる、ということである。
おわりに
一様な上昇風および巡航中に正対風や背風が非常に短い時間で変化した場合の対気エネルギーと対地エネルギーの変化について説明した。
次の記事では、高度ではなく飛行方向が変化する旋回運動に注目し、一様水平風中で風が航空機へ行う仕事と、一周したときのエネルギー収支を考える。

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