強風帯と弱風帯を用いるRayleigh型のダイナミックソアリングについて説明する。
はじめに
前の記事「一様風中での旋回におけるエネルギー移動」では、一周後に速度ベクトルが初期値へ戻る理想的な閉軌道では、風による正負の仕事が相殺し、実際の飛行では抗力損失が残ることを示した。

この相殺を崩すには、風速の異なる領域を利用する必要がある。
対地エネルギーが増加する風上から風下への方向変化を強風域で行い、対地エネルギーが減少する風下から風上への方向変化を弱風域で行えば、一周の旋回の間に風が航空機へ行う正負の仕事の大きさを非対称にできる。
一周期における風からの正味の仕事が抗力損失と釣り合えば、同じ運動を繰り返すことができ、風からの正味の仕事が抗力損失を上回れば、一周期ごとに航空機のエネルギーを増加させることができる。
これが、風速差を利用するダイナミックソアリングの基本的な考え方である。
ここでは、その最も単純なモデルとして、下層の弱風帯と上層の強風帯を厚さゼロの風速境界で分けたRayleigh型のサイクルを考える。
参考文献
高度によって水平風速が異なる風速場を利用することで無動力飛行を持続する考え方は、Rayleighまで遡る。
Rayleighは1883年の The Soaring of Birds で、鳥の無動力飛行を説明するために高度による風速差を利用する可能性を提示した。
さらに1889年の The Sailing Flight of the Albatross では、1883年の考えをアホウドリの飛行へ結びつけ、高度とともに風速が増加する風を利用するには、風上へ上昇し、風下へ下降する運動が必要であることを述べている。
現在Rayleigh cycleと呼ばれる理想化モデルは、この考え方をstep状の風速分布を反復して横切る周期運動として整理したものである。
Alexandreらは、Rayleighが提案したstep wind profileを繰り返し横切るモデルを、現在Rayleigh cycleとして知られるモデルとして位置づけ、その4フェーズとenergy-neutral trajectoryを整理している。
Lissamanは、地面固定慣性座標系における力学的エネルギーを用いて、風上上昇、風下降下、風上から風下への旋回などで風が航空機へ正の仕事を行うことを整理している。
また、一周期で風から正味のエネルギーを得るには、周期の途中で異なる風速領域を利用する必要があることを説明している。
Richardsonは、薄い風速境界で分けられた二つの一様風速帯を用いて、高速RCグライダーのRayleigh型ダイナミックソアリングを具体的に解析している。
境界横断による対気速度の増加と、各半周中の抗力損失が釣り合うenergy-neutral soaringを扱っており、本節で用いる二層モデルとの対応がよい。
Rayleigh型サイクル
前の記事では、一様水平風中で一周して同じ速度ベクトルへ戻ると、風による正負の仕事が相殺することを示した。
風上から風下への旋回では、風が航空機へ正の仕事を行い、風下から風上への旋回では、風が航空機へ負の仕事を行う。
同じ一様風の中で両方の旋回を行えば、理想的な一周では風から受ける正負の仕事が相殺するため、風上から風下へ旋回するときには強い風を利用し、風下から風上へ旋回するときには弱い風を利用することを考える。
同程度の速度変化であれば、前に導いた、
\begin{align} \Delta E_{g,\mathrm{wind}} =m\mathbf W\cdot \Delta\mathbf V_a \end{align}
から、風速の大きい区間ほど風による仕事の絶対値も大きくなる。
この考え方を最も単純化したものとして、二つの風速帯の間を厚さゼロの風速境界で分け、この境界を反復して横切る理想化モデルである Rayleigh型サイクル がある。
このモデルでは、以下のような、下層の弱風帯と上層の強風帯を考える。
\begin{align} \mathbf W_L =U_L\mathbf e_x \end{align}
\begin{align} \mathbf W_H =U_H\mathbf e_x, \qquad U_H>U_L\geq0 \end{align}
風速差は、
\begin{align} \Delta U =U_H-U_L > 0 \end{align}
である。

弱風帯を風上向きに飛行している状態を一周期の始点とすると、一周期は次の4フェーズで構成される。
- 弱風帯から強風帯へ、風上へ向かって上昇する。
- 強風帯で、風上から風下へ旋回する。
- 強風帯から弱風帯へ、風下へ向かって降下する。
- 弱風帯で、風下から風上へ旋回し、次の周期の初期状態へ戻る。
ここでは、Rayleigh型サイクルの基礎モデルとして、次の仮定を置く。
- 強風帯と弱風帯の内部では、風速と風向が一様である。
- 二つの風速帯の境界は厚さゼロの不連続面とする。
- 境界横断時間はゼロに近く、その間の空気力の力積を無視する。
- 境界横断中の高度変化を無視する。
- 境界では対地速度が連続する。
- 旋回は各一様風速帯の内部で行う。
対気エネルギーによる説明
まず、Rayleigh型サイクルを対気エネルギー基準から考えてみる。
「上昇風と水平風によるエネルギー獲得」で示したように、風速が短時間で変化し、その間の対地速度変化と高度変化を無視できる場合には、
\begin{align} \Delta E_a =-m\mathbf V_a^- \cdot \Delta\mathbf W +\frac{1}{2}m \left| \Delta\mathbf W \right|^2 \end{align}
となることを示した。
厚さゼロの風速境界を横切るRayleigh型モデルでは、この式をそのまま境界横断へ適用できる。
一方、強風帯と弱風帯の内部では、
\begin{align} \frac{d\mathbf W}{dt} =\mathbf 0, \qquad W_z=0 \end{align}
なので、対気エネルギー変化率は、
\begin{align} \dot E_a =-DV_a \end{align}
となる。
したがって、対気エネルギー基準では、
- 二回の風速境界横断で、風速変化による対気エネルギー交換が生じる。
- 各一様風速帯の内部では、抗力によって対気エネルギーが失われる。
という形で一周期の収支を分けて考えることができる。
抗力を無視する理想モデルでは各一様風速帯内の対気エネルギーは一定であり、実際の航空機では各区間で抗力損失が生じる。
以下では、二回の風速境界横断と一周期の収支を順に説明する。
弱風帯から強風帯へ風上向きに上昇する
弱風帯から強風帯へ移動するとき、風速変化は、
\begin{align} \Delta\mathbf W =\mathbf W_H- \mathbf W_L =\Delta U\mathbf e_x \end{align}
である。
境界横断直前の対気速度を \(\mathbf V_{a,\mathrm{up}}^-\) とすると、対気エネルギー変化は、
\begin{align} \Delta E_{a,\mathrm{up}} =-m\mathbf V_{a,\mathrm{up}}^- \cdot \Delta\mathbf W +\frac{1}{2}m \left| \Delta\mathbf W \right|^2 \end{align}
となる。
航空機は風上へ向かっているため、
\begin{align} V_{a,x,\mathrm{up}}^-<0 \end{align}
である。
したがって、
\begin{align} -m\mathbf V_{a,\mathrm{up}}^-\cdot\Delta\mathbf W>0 \end{align}
となり、
\begin{align} \Delta E_{a,\mathrm{up}}>0 \end{align}
である。
強風帯から弱風帯へ風下向きに降下する
強風帯から弱風帯へ移動するとき、風速変化は、
\begin{align} \Delta\mathbf W =\mathbf W_L- \mathbf W_H =- \Delta U\mathbf e_x \end{align}
である。
境界横断直前の対気速度を \(\mathbf V_{a,\mathrm{down}}^-\) とすると、
\begin{align} \Delta E_{a,\mathrm{down}} =-m\mathbf V_{a,\mathrm{down}}^- \cdot \left( -\Delta U\mathbf e_x \right) +\frac{1}{2}m \left( \Delta U \right)^2 \end{align}
となる。
航空機は風下へ向かっているため、
\begin{align} V_{a,x,\mathrm{down}}^->0 \end{align}
である。
したがって、
\begin{align} \Delta E_{a,\mathrm{down}}>0 \end{align}
となる。
一周期の収支
一周期における対気エネルギー収支は、境界を上向きに横切るときの獲得、境界を下向きに横切るときの獲得、および全区間の抗力損失の和で表される。
\begin{align} \Delta E_{a,\mathrm{cycle}} &=\left[ -m\mathbf V_{a,\mathrm{up}}^- \cdot \left( \Delta U\mathbf e_x \right) +\frac{1}{2}m \left( \Delta U \right)^2 \right] \\ &\quad+ \left[ -m\mathbf V_{a,\mathrm{down}}^- \cdot \left( -\Delta U\mathbf e_x \right) +\frac{1}{2}m \left( \Delta U \right)^2 \right] \\ &\quad- \int_{\mathrm{cycle}} D V_a\,dt \end{align}
風向に平行な理想横断について、\(V_{\mathrm{up}}^-\) と \(V_{\mathrm{down}}^-\) をそれぞれ横断直前の対気速度の大きさとすれば、
\begin{align} \Delta E_{a,\mathrm{cycle}} =m \left( V_{\mathrm{up}}^- +V_{\mathrm{down}}^- \right) \Delta U +m \left( \Delta U \right)^2 -\int_{\mathrm{cycle}} D V_a\,dt \end{align}
となる。
対気エネルギーの獲得量と抗力による損失量が釣り合い、
\begin{align} \Delta E_{a,\mathrm{cycle}}=0 \end{align}
となれば、一周期後の対気エネルギーは初期値へ戻り、ダイナミックソアリングを周期的に継続できる。
一方、
\begin{align} \Delta E_{a,\mathrm{cycle}}>0 \end{align}
ならば、一周期ごとに対気エネルギーが増加する。
そのエネルギーを対気運動エネルギーとして保持すれば加速でき、位置エネルギーへ変換すれば上昇できる。
速度が増加すると、
- 形状抗力と摩擦抗力
- 抗力仕事率 \(DV_a\)
- 高荷重旋回時の誘導抗力
- 圧縮性の影響
- フラッター
- 構造荷重
- 操縦・計測上の限界
が大きくなっていく。
加速が続くと抗力損失も増大するため、持続可能な速度はエネルギー収支によって制限される。また、構造荷重、フラッター、操縦性などの限界が先に支配する場合もある。
RCグライダーの高速記録は、この仕組みを用いて達成されている。
例えば、2023年2月21日には、無動力RCグライダーについてレーダー計測による対地速度 \(564\ \mathrm{mph}\)、約 \(908\ \mathrm{km/h}\) が報告された。
対地エネルギーによる説明
次に、同じRayleigh型サイクルを対地エネルギー基準から考える。
「航空機が風からエネルギーを得る仕組み」で導いたように、一様・定常水平風中で、ある区間の対地エネルギー変化は、抗力による損失と、移動する空気が航空機へ行う仕事の和として、
\begin{align} \Delta E_g =-\int DV_a\,dt +m\mathbf W\cdot \Delta\mathbf V_a \end{align}
で表される。
この式について、厚さゼロの風速境界を横切る瞬間と、その間にある一様風速帯内の旋回を分けて考えていく。
風速境界を横切る瞬間
厚さゼロの風速境界を瞬間的に横切る理想モデルでは、
\begin{align} \Delta\mathbf V_g =\mathbf 0, \qquad \Delta h =0 \end{align}
である。
したがって、
\begin{align} \Delta E_g =0 \end{align}
となる。
つまり、対気エネルギーが境界横断によって跳躍的に変化する一方、対地エネルギーは変化しない。
強風帯で風上から風下へ旋回する
強風帯では、
\begin{align} \mathbf W_H =U_H\mathbf e_x \end{align}
である。
強風帯内の旋回開始時を状態1、終了時を状態2とすると、対地エネルギー変化は、
\begin{align} \Delta E_{g,H} &=-\int_H DV_a\,dt \\ &\quad +mU_H \left( V_{a,x,H,2} -V_{a,x,H,1} \right) \end{align}
となる。
風上から風下へ旋回するため、風下方向の対気速度成分は増加し、
\begin{align} V_{a,x,H,2} -V_{a,x,H,1} > 0 \end{align}
となる。
したがって、風による仕事は正である。
\begin{align} mU_H \left( V_{a,x,H,2} -V_{a,x,H,1} \right)>0 \end{align}
実際の対地エネルギー変化は、この風から受ける正の仕事から、同じ旋回区間の抗力損失、
\begin{align} \int_H DV_a\,dt \end{align}
を差し引いた量になるため、以下の条件
\begin{align} mU_H \left( V_{a,x,H,2} -V_{a,x,H,1} \right) > \int_H DV_a\,dt \end{align}
を満たせば、強風帯における風上から風下への旋回で対地エネルギーが増加する。
弱風帯で風下から風上へ旋回する
弱風帯では、
\begin{align} \mathbf W_L =U_L\mathbf e_x \end{align}
である。
弱風帯内の旋回開始時を状態1、終了時を状態2とすると、
\begin{align} \Delta E_{g,L} &=-\int_L DV_a\,dt \\ &\quad +mU_L \left( V_{a,x,L,2} -V_{a,x,L,1} \right) \end{align}
となる。
風下から風上へ旋回するため、
\begin{align} V_{a,x,L,2} -V_{a,x,L,1} <0 \end{align}
である。
したがって、この区間では風による仕事も抗力による仕事も負となり、対地エネルギーは減少する。
Rayleigh型サイクルでは、この負の方向転換を風速の小さい弱風帯で行うことで、強風帯で風から受ける正の仕事と弱風帯で風から受ける負の仕事を非対称にする。
一周期の収支
厚さゼロの境界横断では対地エネルギーが保存されるため、一周期の対地エネルギー変化は、強風帯と弱風帯において風から受ける仕事、および全区間の抗力損失の和として、
\begin{align} \Delta E_{g,\mathrm{cycle}} ={}&mU_H \left( V_{a,x,H,2} -V_{a,x,H,1} \right) +mU_L \left( V_{a,x,L,2} -V_{a,x,L,1} \right) -\int_{\mathrm{cycle}}DV_a\,dt \end{align}
と書くことができる。
一周期における正味の風から受ける仕事が抗力損失と釣り合い、
\begin{align} \Delta E_{g,\mathrm{cycle}} =0 \end{align}
となれば、一周期後の対地エネルギーは初期値へ戻る。
このように、ダイナミックソアリングは、対気エネルギー基準で見ると、二回の風速境界横断で対気エネルギーを獲得する現象として整理できる。対地エネルギー基準では、強風帯と弱風帯で風から受ける正負の仕事の大きさを非対称にし、一周期で正味の仕事を得る現象として整理できる。
おわりに
Rayleigh型サイクルでは、厚さゼロの風速境界を二回横切ることで対気エネルギーが増加し、各一様風速帯の内部では抗力によって対気エネルギーが失われる。一周期で両者が釣り合えば、同じ周期運動を継続できる。
対地エネルギー基準では、風上から風下への方向変化を強風帯で行い、風下から風上への方向変化を弱風帯で行うことで、風から受ける正負の仕事の大きさを非対称にできる。風から受ける一周期の正味の仕事が抗力損失を補うことが、Rayleigh型ダイナミックソアリングの基本となる。
ここでは風速差を厚さゼロの境界へ集中させた。次の記事では、水面付近で風速が高度とともに連続的に変化する場合を考え、同じエネルギー交換が有限の風速勾配の中でどのように現れるかを整理する。

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